龍神地釜とうふ工房 るあん
まきの火でつくる、龍神の味
まきの火と向き合い、田舎の知恵を詰め込んで昔ながらの豆腐を作る小澤 聖(おざわ きよし)さんをご紹介します。
まきの火で豆腐づくり
「るあん」は2006年4月に開店しました。まきの火と羽釜を使う昔ながらの製法にこだわり、龍神地域独特の硬めで濃厚な豆腐作りを再現しています。まきの火で豆腐作りをする店は、全国でも珍しいといいます。
昔は、龍神地域の多くの家庭で、盆や正月に羽釜を使って豆腐を作っていました。人が集まる時期のぜいたく品。大勢が集まって豆腐を作る姿は風物詩の一つで「豆腐作り名人」がどこにでもいました。
「龍神の味をなるべく出したい。次の世代に伝え、よその地域の人にも知ってもらいたい」と、研究を重ねる毎日。地元の高齢者らも「懐かしくておいしい」と口をそろえます。小澤さんに昔の味や作り方を必死に伝えようとする人もいます。
「ごちそう」だった時代の豆腐
小澤さんの1日は、午前1時に始まります。
火をおこし、道具を煮沸するまでで2時間ほどかかります。前日に水に漬けておいた大豆を、電動石臼ですりつぶし釜で炊いてから、木綿の袋で搾って豆乳にします。にがり(塩化マグネシウム)を入れて熟成させ、箱に流し入れて固めます。季節によって、大豆を漬ける時間や固める時間を見極めます。
一般の豆腐作りで使われる消泡材の代わりに、昔ながらのぬかを使っています。まきは、スギやヒノキの間伐材、友人からもらう雑木などさまざま。釜を温めるのにはスギ、炊く時には堅い木と使い分けます。
1回の工程でたくさん作れるわけではなく、しかも大豆をふんだんに使うため、値段は1丁300円と高価ですが、配達を玄関先で楽しみに待つ人がいます。
小澤さんは今、地元で古くから栽培されている品種「青大豆」(通称)を使った豆腐を研究しています。商品化することで、昔のように収穫量を増やし、地域の高齢者らの収入増につなげたいのです。
家族と共に
3人の子どもに「働いている姿を見せたい」と、小澤さんは言います。子どもらにも、まきを集めたり掃除をしたりと仕事を与えます。「一緒に仕事をすることでいろんなことが学べるし、ほめてあげられる機会も増える」と、優しい父親の表情。
小澤さんは1972年、千葉県生まれ。妻の友佳子さんとは、タイへボランティアに行った時に知り合いました。ともに約5年間、現地の非政府組織(NGO)に所属し、村に学校がない山岳民族の子らが学校に通うための寮でスタッフとして働きました。
帰国後、国のグリーンキーパー事業で龍神に来たことがきっかけで、住むようになりました。護摩壇山のふもと、日高川支流の小又川の川べりにある古民家に居を構えています。
「季節の移ろいに合わせた仕事や生活がある」「困った時に自分たちだけで対応できる生活力がある」と龍神の魅力を語ります。
出会いをきっかけに
豆腐作りの道を選んだのは、ある出会いがきっかけでした。
龍神に住むようになったころ、古座川町の製塩職人(故人)と知り合いました。「にがりは、海の恵みだ。このにがりで作る豆腐はうまい」と熱っぽく語る姿にひかれ、豆腐作りに関心を持ちました。一晩酒を酌み交わしながら豆腐談義に花を咲かせたそうです。
同時に、龍神が豆腐作りの盛んな地域であったことを知るとともに、そういった文化が消えつつあることも分かりました。「豆腐に詰まったふる里の知恵を残したい」。開店を決意しました。
地元には、かまどを造れる左官職人がおり、10年ぶりの仕事を喜んでくれました。自宅を店に改装してくれた大工の一家は、豆腐を作る木枠を持っており、好意で譲ってくれたり作ってくれたりしました。
豆腐作り体験
※現在体験は行っておりません
るあんでは、豆腐作り体験を楽しめます。3人以上で、前日までに予約が必要です。
所要時間は2時間程度。料金は、試食と持ち帰り用の豆腐が付いて1人3000円が基本で、体験人数によって変わります。